作品紹介

制作概念

 私の作品制作における本質的な特徴の一つは、形や色を変化させ、形式的な反復を拒否し、絶えず動いた状態にあるような形式を創りだしていく行為のなかにあります。平面表現には素材表面に手の動きによる変化と反復の痕跡があり、生気あふれる動きの感覚をその画面から感じとることができます。手の動きが生み出す多様なストロークによって描かれる形は変形の可能性に富む造形要素を内包しているといえるでしょう。このように「手」が生み出す形にはさまざまな造形要素が含まれています。しかしあまりにも自己閉鎖的で、最初の形が確固として公理化されすぎているような造形要素は変形の可能性を阻害してしまいます。そうした要素には、排他的で動きを消す傾向があるからです。変化の原理が最初から内包されているような造形言語の探求から出発すべきだと考えています。コンピュータが演算し、作り出す形は変化の造形要素の一つを提供しており、それを拡張し現実に使う機会を与えるために作品を制作しています。

 ここに掲載する作品は「赤い夜の嘆きのなかで」と題し、質感化の概念を用いて制作したもので、嘆きという人間の感情のねじれをビジュアルに表現しようとしたものです。これらの作品は2020年から2022年にかけて制作したものです。