研究について

研究概要:造形素材の物質性について―素材表面の質感化―

1.概要

 私は、造形活動において物質的な特性が表現とどのような関わりを持つかについて研究しています。

 造形活動を行うためには物質性を持った素材を用います。例えばロシア・アヴァンギャルドやバウハウスでは、光や運動という当時それまでに扱われたことがなかった素材を表現形成に取り込もうとしましたがその際、写真技術等を用いてそれを操作可能なものとして扱おうとする試みがなされました。そこでは形やその布置のやり方、他の要素との関係による空間の生成などが重視されます。これは構成という概念をもとに、素材を物質として扱おうとする意識と考えられます。

 従来、構成に関する研究は、バウハウスに関するもの等が知られており文献や作品、歴史、理論に関する研究からは、造形の理念として構成という概念の重要性を知ることができます。また当時の構成訓練の方法論は、現在でも興味深く感じられます。しかし従来の理論による構成の手続きを発展的に捉え、新たな試みを行う研究はみられません。

 この研究は構成という概念を基盤に素材を物質的に扱う方法を研究し、表現との関わりを探ろうとするものです。

2.この研究の特徴

 ブルーノ・ムナーリ*1 は1967年にハーヴァード大学にて講義を行いましたが、そこで彼はヴィジュアル・コミュニケーションの媒体の一つとしてフォルムや構造などと共にテクスチャを位置付けています。ムナーリはテクスチャを「ある表面を質感化する」目的で用いられるもので、「視覚的な興味」を引き起こすものと考えています。

 光や運動を素材化するために写真の技法を用いるとき、その行いは光や運動を「視覚的な興味」を起こさせるものに変換することであり、それは「ある表面を質感化」することになるでしょう。写真の技法には光や運動を印画紙上に定着させるという特徴があり、これによりこれらの素材を構成することが可能になります。この行為は素材に物質性を持たせることです。

 光や運動は非物質的な特性を持ち、素材として扱いにくい性質です。しかしこれを素材化することによって、造形表現に新たな局面を切り開いたといえるでしょう。さてデジタル技術を用いて生成した画像はこれまでの素材とは違った特色が感じられますが、これを物質化する研究は試みられていないと考えられます。本研究の特徴はデジタル画像を素材とし、それに物質性を持たせることにより操作可能にする方法を探ることです。物質性を持たせるために素材表面を質感化する必要があると考えています。

3.論文

 以下の2編の論文を掲載します。論文の執筆を通じた考察は私の研究を支えるもので、作品と関連させてお読みいただければ幸いです。また論文中にはこれまで携わってきた美術教育に関する考察が含まれておりますが、教育の分野は私の研究のなかで重要な位置を占めています。

1. PDF インタラクション ―CG表現に関して―

(初出 NICOGRAPH/MULTIMEDIA論文コンテスト(平成12年度第16回)論文集)

2. PDF デジタル画像の物質性についての一考察 ―素材の質感化の観点から―

(初出 美術教育学第33号 平成24年3月)


*1 ブルーノ・ムナーリ(1907〜1998)イタリアのデザイナー、アーティスト。本稿は「デザインとヴィジュアル・コミュニケーション」(2006 みすず書房 萱野有美 訳)を参照しました。

*このホームページはJSPS科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金) 課題番号23531226「造形教育に関する一考察 ―物質性と肌理の関係から―」の助成により作成しました。