授業内容


第18回(第5回) 行列を使った経済学の実際
18 経済学での実際

18.1 産業連関表分析

世の中には、その産業単体で財の生産を行っている産業は、ほぼ皆無といえます。自産業の財の生産に、他の産業の製品を利用(投入)すると同時に、自産業の製品をも利用している。もちろん、消費者にもその生産物を供給する。そういった構造になっているはずです。
例えば、ブリヂストン(タイヤ産業)とトヨタ(自動車産業)の関係のようなもので考えてみましょう。
ブリヂストンはタイヤを作り、トヨタは車を作る。しかし、ブリヂストンは自社内でタイヤを流通させ、トヨタ製の車をも(営業用か工場での作業用かはわかりませんが)投入するでしょう。同時に、トヨタは車の生産にタイヤの存在が不可欠であり、自社内での車の流用をも行うはずです。これは中間財需要(投資)という言葉で表されます。
一方、消費者に対してもタイヤ市場、車市場ともに確立されており、それぞれの需要を考えることができる。これを最終財需要(消費)と呼びましょう。
この様な考え方をもとに産業と中間財需要、最終財需要の関係を表したものが産業連関表です。

次のような産業連関表を例にとって考えて見ましょう。

投入\産出

第1産業

第2産業

消費者

総生産量

第1産業

20

30

50

100

第2産業

40

210

50

300

本来この表は、次のような二つの式を表しています。

例えば、第1産業は最終生産物100単位を生産しているが、そのうち消費財市場に出回るのは50単位のみで、残りの50単位のうち中間生産物として自産業(第1産業)内へ20単位再投入し、第2産業へ30単位を投入する形になっています。
これは、比例性の仮定(各部門が使用する投入量は、その部門の生産水準に比例する)によると、第1産業はその生産量100に対し、原材料としての投入を、第1産業へ(その100の生産のために)20単位、第2産業へ(その300の生産のために)30単位、それぞれ行っていることを表しています。
そこで、j産業が生産1単位あたり必要とするi産業の投入単位を比例定数(投入係数)として、とおくと、

と表される。これにより上式は、

という形の連立方程式に変形が可能であることを表しています。この連立方程式が普遍的に成り立つとすると、投入係数を使って次のように書き換えられます。

行列の形式で書くために以下のように置きましょう。

すると、上での連立方程式は、

または、

これを、Xについて解くので、最終需要を充たすための生産量は、以下の形で必要になることが分ります。





←最終形

ただし、産業連関表では、以下の5つの仮定を置いていることがポイントになります。

1.各産業は各々ひとつの生産物を生産する
2.各産業はただひとつの生産方法を持つ
3.各産業は各部門の生産物は生産財(中間投入物)としても消費財(最終生産物)としても使用される
4.投入係数不変
5.線形の生産関数を想定(規模に関して収穫一定)

18.2 マルコフ・チェーン

一般に、ある時点で起きる事象の確率が、その直前の事象にのみ影響を受ける場合を単純マルコフ過程と呼びます。

その繰り返しで、分布の推移を解析する手法がマルコフ・チェーンです。具体的には、マーケットシェアの変遷を観測・予測する場合等に使われます。次の例で見てみましょう。

今、自動車の市場があり、そこにT社とH社の2つのメーカーがあったとしましょう。

両者は5年ごとにモデルチェンジをして、新製品を出し、それにあわせて消費者は買い替えを検討するとします。

その際、T社の顧客の満足度は高く、9割がT社の新製品を買い、1割がH社の製品に乗り換えるとしましょう。逆に、H社の顧客の満足度はそれほど高くなく、6割がH社の新製品を買うのみで、4割はT社の製品に買い換えるとしましょう。この割合から作られる行列は、推移確率行列、または推移行列と呼ばれます。

初期のマーケットシェアが1:1、つまり五分五分だった場合、第2期のT社のシェアは次のように計算できます。

同様に、第2期のH社のシェアは次のようになります。

ここではシェア、つまり割合を問題にしているので度数は問題ではありません。

これは、行列形式で表現すると次のように書くことができます。

すると、第3期のマーケットシェアは第2期のそれに依存するので、

第n期のマーケットシェアは次のように表せます。

結果、最終的にT社のマーケットシェアは8割に近づき、H社のマーケットシェアは2割に近づいていきます。この時のマーケットシェアを均衡シェアといいます。

初期分布がどういう形かはほとんど問題でなく、推移確率がどのようになっているかが問題です。(注:線形代数を知っていれば、固有多項式を解くことで均衡シェアを一発で求めることも可能ですがここでは行列の仕組みを知ることを目的としていますので、そこまでやっていません)

 

自由課題(提出は自由です)
産業連関表について
第1産業の最終需要が60、第2産業の最終需要が50の場合、それぞれの生産量がどれだけ必要かSAS/IMLを使って計算してみましょう。プログラムを提出。

マルコフ・チェーンについて
初期の分布がT社:H社で、1:0の場合(つまり初期にはT社の独占)に第10期のマーケットシェアがどうなっているかを計算してみましょう。プログラムを提出。


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