NBU日本文理大学

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対 談

未来を見据えた柔軟な発想力で
進化を続ける医療業界の最前線へ。

永きにわたり脳卒中や頭部外傷の救急医療に携わり、大分市東部の地域医療を支えている河野脳神経外科病院。2021年12月に新たな施設を構え、脳神経外科単科病院として地域の健康ニーズへのさらなる対応を目指している。今回は、地域における病院の役割と地域における大学の役割、医療業界のこれから、未来の医療分野に求められる人材などについて熱く語り合いました。

医療法人 久真会
河野脳神経外科病院 院長
河野 義久 氏
KAWANO YOSHIHISA

大分県由布市出身。大分医科大学医学部医学科卒業。大分医科大学付属病院脳神経外科勤務、三愛病院勤務・脳神経外科部長などを経て、1995年に河野脳神経外科(診療所)開業。2002年に河野脳神経外科病院(40床)開院。地域の中隔病院として、介護・療養施設のスタッフと連携を取りながら、患者さま一人ひとりを大切にする医療サービスを目指す。主な専門は脳卒中全般、MRI臨床研究他。

学校法人 文理学園
日本文理大学 学長
橋本 堅次郎
HASHIMOTO KENJIROU

大分県日田市出身。慶応義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。企業に入社後は営業、販売促進、人事、総務、子会社再建、大型商業ビル開発など幅広く担当。2011年より日本文理大学に経営経済学部の教授として着任し、経営経済学部長、理事・副学長を歴任後、2021年4月学長に就任。専門は、流通経営やマーケティング、マネジメント論。

信頼され、愛される存在になる。
地域における病院、大学の役割とは

河野:27年前の開業当初、周辺には脳外科専門のクリニックや病院がありませんでした。まずは、大分市森町エリアの地域住民の方々に、いち早く医療サービスを届けるシステムや拠点が必要だと決意したのが開業のきっかけです。現在、脳梗塞の治療は、血管内にカテーテルを入れ、血栓を取り出す「血栓回収療法」がメジャーです。今回、大分県での急性期患者治療を強化し、血栓回収治療の拠点を作りたいと、病院の新築移転を行いました。緊急処置室からCT室、その隣に血管撮影室(DSA室)を配置することで、血栓を迅速に除去できるようになりました。

橋本:10年以上前に先生にお会いしたとき、「私たちの仕事は地域から脳疾患をなくすことです」と力強くおっしゃっていました。その言葉がとても印象に残っていたのですが、10年経った今でも「患者様の心を心とし、最高、最良、善意の医療を行います」という理念を持ちながら行動されているのですね。

河野:私は大分医科大学(現大分大学)医学部の第1期生でした。入学式での初代学長の「君たちは患者さんの心を心とする医者になりなさい」という言葉について自分なりに考えたところ、「患者さんファーストでチームでサポートする」という答えに辿りついたのです。実は3年前に私自身が病気を経験し、病院に入院したのですが、とにかく心細かった…。看護師の何気ない発言が気になったり、不安になる入院生活でした。そこで、改めて患者様の気持ちを考え直したのです。橋本学長は、地域における大学のあり方について、どうお考えでしょうか。

橋本:NBUでは、地域に積極的に飛び出し、豊かな心と課題解決力の育成を目指す「おおいた、つくりびとプロジェクト」を推進しています。これまでは、高校卒業、大学卒業のタイミングで都会に進出する若者が多かったのですが、最近は地域愛が強く大分を盛り上げたいと意気込む若者も増えてきました。また、昨今のコロナ禍の影響もあり「東京に行かないと何もできない」という時代ではありません。このプロジェクトを通してまちづくりにコミットすることで、地域の活性化を実感しています。

ITデジタル化するからこそ
現場で「考える」ことを大切に。

河野:医療はどんどん進化して、技術も日々変化しています。知識を深め、身につけた知識を活用できるよう、常に学びの姿勢が大切だと感じています。また、医療現場でもAIが活用されるようになってきました。現在は、医師が問診を行う際、頭痛などに悩む患者さんからいろいろと話を聞き、病気を推測します。今後はその作業をAIが行うでしょう。そして、その作業を何度も繰り返すうちに、AIが学習することで、精度が上がり、医師による問診が必要なくなる可能性もあります。

橋本:そう考えると、学生もAIについてしっかり学んでいかなければいけませんね。AIやデジタル技術によって、診療放射線技師の仕事はどのように変化するとお考えでしょうか。

河野:今後はCTやMRIでの画像診断をAIが行うようになるでしょう。診療放射線技師は、デジタルで導き出された豊富な情報の中から、正しいものや重要視するものを的確に判断し、確定診断につながる撮像方法を提案する能力が求められます。

橋本:何に注目し、どの情報が重要なのかを判断するのは人間にしかできません。だからこそ、自分の頭で考え、課題を見出すことができる人材の育成が必要ということですね。2023年の春、「日本文理大学保健医療学部(仮称)」を設置する予定です。日本文理大学医療専門学校での学びを踏襲するだけでなく、もっと柔軟に考え、探究心を持ち続ける学生を育てなければいけないと感じています。まず学生にしっかり指導し、あとは学生が“やってみる”。これが教育の基本だと思っています。最初は難しいかもしれませんが、学生自身が工夫することで、新しい発想や面白いアイデアが生まれることもあります。

河野:最近は、患者さんに対してメディカルスタッフだけのチーム体制で医療を提供するのではなく、患者さんも家族も同じチームの一員という「シェアード・ディシジョン・メイキング」の考え方が主流になってきています。今や、何か症状があれば、自らインターネットで調べて知識を手に入れられる時代。患者さんの中には、病院を受診する前にきちんと調べあげ、私たちと同じぐらいの知識を持っている人も多くいます。医師は患者さんに病気のことや治療法をしっかりと説明し、患者さんは自身の生活や社会的な情報を医師に伝えます。双方向での話し合いを経て、治療方針を決めていきます。つまり、今後の医療現場で求められる能力はコミュニケーション能力です。医療技術も大切ですが、相手の立場になって話ができるように努力しなければいけません。

河野:デジタルネイティブ世代と呼ばれる今の若者は、コミュニケーション能力が低下していると言われています。5、6人の学生が一緒に食堂で食事をしているのですが、それぞれが自分のスマホを見ながら食べ、時々「うん」や「そう」と話すくらいです。コロナ禍で黙食が推進されたことも、コミュニケーション能力を低下させた理由のひとつでしょう。ただ、コミュニケーション能力が低下した自覚がある学生も多いようで、教員に対する相談も増えています。悩んでいるからこそ、改善のために一生懸命取り組む学生の姿が印象的ですね。

“医療産業人”になるために
求められる力や教育とは。

河野:今回の新学部設立にあたって、学部名に「保健」の名をつけた狙いを教えてください。

橋本:現在、医療行為だけではなく、未病や健康寿命を延ばす、健康を保つことが重視されています。「保健」は人に関わること、さらに広い意味で考えると「保健」は人と地域に関わることだと考えています。私たちは、高い医療技術だけでなく、豊かな心やコミュニケーション能力から成る「人間力」を兼ね備えた“医療産業人”の育成を目指しています。

河野:「パンフレットを見せていただき、はじめに“医療産業人”と聞いたとき、「産業人とは何なのか」と少し疑問に感じました。一般的に産業人とは、企業で働いている人のことを指します。彼らの目的は、地域のいろいろなニーズに答え、商品を届けることです。学長のお話を伺い、医療産業人とは「地域の保健医療のニーズに応えることができる人間」のことで、地域における健康、保健の問題を知識やスキルで解決していくことができる人間だと理解しました。

橋本:NBUの建学の精神は「産学一致」です。産業界と同じ立場に立って地域の課題解決ができる人材の育成を教育理念として掲げています。新たに設立する「保健医療学部(仮称)」の学生たちも医療業界や研究職、医療コンサルタントなど、さまざまな現場の人々たちと同じ目線で物事を考えられるようになってほしいと考えています。医療現場がこれだけ進化しているのに、大学が保守的な考え方のままではいけません。限られた時間の中で専門科目にプラスして、考える力や柔軟性、提案力などを身につける教育の重要さを改めて実感しました。3学部が連携を取りながら、社会や産業界を広く俯瞰しながら柔軟に発想できる力を養っていきたいと思っています。

KEY WORD

河野脳神経外科病院・診療放射線技師・医療産業人・保健医療学部・血栓回収療法・シェアードディシジョンメイキング